波崎のサッカータウンについて「その1」で概要を紹介してから時間が経過してしまいましたが、続編をお届けします。
今回は、昨年12月にご紹介した70面を超える波崎サッカータウン誕生から現在に至るまでの経緯について、故横山氏とともに活動し、現在もサッカータウンと密接に関係を続けているスポーツマネジメント㈱の脇田社長からヒアリングした話を以下に紹介します。
●波崎地区には、サッカータウン以前にも多くの宿泊施設が存在していた
波崎地区には、従来から30軒程度の宿泊施設があり、客層としては「海水浴や釣りなど海関係のレジャー客」「鹿島臨海工業地帯のコンビナート関連の客」「スポーツ合宿」などが主でした。「スポーツ合宿」には若干ですが、近隣の企業などが有するサッカーグランドを使ったサッカー合宿も含まれていました。
しかしながら、いずれの客層も頭打ちで、宿泊施設経営が直ぐに成り立たなくなるほどの危機ではないものの、1990年頃は稼働率が低下傾向でした。
●サッカータウンの提案
Jリーグ発足の1年前である1991年に、当時学生の団体合宿の斡旋を当時所属する会社で担当していた横山氏が、「これからサッカーの時代が来るが、底辺の人たちが使える芝のグランドがほぼ皆無である」ことに着目、「サッカーを一過性のブームで終わらせない為にも、一般の人たちが芝のグランドで練習や試合ができる環境を整備」することを自らの使命とすることを決意しました。
その後、東京近郊でいくつかの(学生の団体合宿を受け入れてくれている)地域を回って調査をした結果、東京からの移動距離や、冬場でも合宿が可能である気候条件などを勘案して、波崎地区(旧波崎町)がサッカータウンに最も相応しいと結論づけました。


●サッカータウンへの第一歩
1992年に入り、横山氏は1993年2月に天然芝を使ったサッカー大会を波崎で開催することを波崎旅館組合に提案しました。2月は波崎の旅館の利用客が一番少ない時期であり、本当に実現するなら歓迎するとの反応ではありましたが、当初はグランドづくりに積極的な理解は得られませんでした。
しかし一軒の旅館で、近隣のグランドを借りてサッカー合宿を受け入れる予定だったのが、直前になってグランドが使えなくなるとのアクシデントがあり、その旅館の経営者が自前のグランドを持つ必要性を認識、横山氏のサッカータウン計画に賛同したのがきっかけで、具体的な動きがスタートしました。
まずその旅館が自前で一面、そして横山氏らが努力して町の遊休地を活用して二面と、計三面の天然芝グランドを造成して大会の準備を始めました。
横山氏が首都圏の社会人チーム等を回り「天然芝でのサッカー大会」の告知を「主として口コミ」で行った結果、想定以上の387チームから応募があり、その大会の成功と反響が、波崎旅館組合をサッカータウンへと突き動かす第1歩となりました。
●サッカーグランドの建設と旅館経営
サッカータウンの実現には、行政の支援は殆ど受けませんでした(初期のグランド用地の提供や大会を開催する際の行政からの賞の授与程度)。
基本的には、各旅館が自己資金で敷地内に天然芝のグランド(旅館の大きさに応じて一面から複数面)を整備し、維持管理をするとともに、通常は旅館単位で学生などの合宿を受入れ、大会の際は旅館組合としてグランドの使用や旅館への宿泊客受け入れを調整するという方式を取っています。
グランド整備費は地形条件や、資材を全て購入するか中古品を活用するか等によって大きく異なりますが、条件次第では1,000万円以内/面での整備が可能でした。維持管理のコストは、旅館の経営者/従業員が整備をするため人件費は基本的にかからず、芝の苗(夏芝と冬芝の購入が必要)や肥料の購入及び機械のリース費などで年間200万円/面程度かかっています。
一方、合宿や大会での利用の際は、旅館組合で共通の料金を設定しており、宿泊費は7,236円(税込)/人(3食付き)、グランド使用料は17,280円(税込)/面/日と決めています。
グランド使用料のみで、維持管理費を払った上で初期整備費を回収するのは困難ですが、宿泊客が増加することで旅館経営全体としてペイできています。
現時点では、年間約30万泊のサッカー客が波崎に訪れており、この人数は70面が整備されてからは殆ど変化していませんが、近年は微減傾向となっています。
サッカータウン開始から既に25年が経過し、旅館の経営者も代替わりし、グランドの整備状態や客への対応などに差が出始めていることや、他地域(鹿嶋地区や御殿場地区、菅平など)との競合などがその理由だと思われます。
「その2」は以上です。
次回「その3」では、旅館組合の関係者に話を聞き、横山氏の提案を受入れた背景や、旅館の立場での苦労話、今後の展望などを報告した上で、最後に「その4」で私なりに本事例からの観光まちづくりへのレッスンを取りまとめたいと思います。